
【第2回】酒田の味を守り続ける
2008年12月16日 掲載
三日月軒駅東店
およそ40年前、夫婦二人で始めた当初はテーブルが2つだけで、わずか8席の小さな店だった。
黙々とラーメンを作った。
味だけでなくその人柄にもファンは着実に増え続け、やがて店の前にお客さんが並んで待つようになった。
小上がりを作り店を広くしたときは本当に嬉しかったと言う。
現在は、コシの強い細ちぢれ麺は息子さんが打ち、
すっきりとまろやかなスープは奥さんの玲子さんが受け持つ。
数年前からは息子さんも厨房に立つようになった。
酒田のラーメンは平均でも1杯200グラムの麺が入っていてボリュームはあるのだが、
ここでは普通盛りでも1杯230グラム。
麺打ちは桿麺(カム・ミェン)という方法で打っている。
練った小麦粉を麺台に乗せ、壁の一方に固定された10キロの鉄棒にまたがり、
リズミカルにジャンプを繰り返す。
麺に網目を付けるように何度も打つと、あのもちっとしたコシが生まれる。
ひとかたまりを打つのに約40分。それを休まず毎日打つ。
腰への負担も大きいと言う。
それでも年夫さんは「先代から教わったラーメンは、変えることなくずっと守っていきたい」と語る。
ラーメンに限らず、飲食業界では食材や器具も変化し、これまでになかったような斬新なメニューも増えてきた。
こうした時代の中で、三日月軒駅東店は創業当時の味を守り続けている。
変えないことは、変えることよりも難しい場合もある。
そしてその選択は、満足そうに店を出てくる客の表情を見ていると、間違っていないと分かる。
スープのダシには、煮干や昆布をふんだんに使っている。
シンプルなだけにごまかしはきかない。
手間ひまをかけることで、飽きのこない誰からも愛される味が出来上がる。
就職して東京で働いている友人が久々に帰省してこのスープを吸ったとき、
「ああ、この味だよ」と、母親とたまのごちそうで食べていた子どもの頃のラーメンの話をはじめた。
さて、三日月軒駅東店には「はし肉ラーメン」(580円)という裏メニューがある。
豚のモモ肉を使ったチャーシューのガワにあたり、
通常はそぎ落とされ商品にはならない部分の肉を使ったラーメンだが、
このチャーシューは煮汁がたっぷりと染み込んでいて、
まさに通好みの味になっている。ぜひ食べてみて欲しい。数量限定。